【エヴァ】なぜ人類補完計画は破綻したのか?徹底考察

なぜ人類補完計画は破綻したのか

チルドレン達の試練

これまで見たように、チルドレン達は、何かしらのパーソナリティ障害を抱えていると言えます。そして、チルドレン達にとって、大人の見本となるべきネルフの職員たちもまた、大きなトラウマやパーソナリティ障害を抱えています。そのため、傷つくチルドレン達に寄り添えるような大人はいません。

別の問題として、ネルフの大人達がチルドレンを同等に扱わないという問題があります。ゲンドウにとってみれば、レイが最も重要であり、初号機の覚醒のきっかけに必要なシンジもある程度は重要ですが、アスカはそれほど重要ではありません。そのため、アスカは度々危険な任務に就かされ、ゲンドウからは褒められるどころか、話しかけられることもありません。リツコもゲンドウから特別扱いを受けているレイに対して敵意を持っており、ユイの子供であるシンジにもその敵意は向けられます。ミサトもシンジとアスカの保護者役を買って出ていますが、シンジに過去の自分を重ね、必要以上に執着してしまいます。その結果、アスカはプライドを傷つけられ、その怒りは贔屓されていると感じているレイやシンジに向けられ、次第に自暴自棄になっていきます。こういった大人達の個人的な理由により引き起こされた問題が、チルドレン達の間に、自然に生まれたはずの兄弟愛を阻害しています。このような、子供を贔屓することにより、引き起こされる子供同士の敵意を、ユングはカインコンプレックスと呼びました。旧約聖書において、弟に嫉妬した兄カインが、弟アベルを殺してしまう話からきています。アドラーもまた、子供たちを差別せずに評価することの大切さを強調しています。しかし、ネルフ職員の中に、そのような余裕をもって子供たちと向き合える大人はいません。

このような、チルドレン達にとって、望ましくない環境で、チルドレン達は命がけで、使徒と闘わなければなりません。

シンクロを要するエヴァは、チルドレン達を強制的に乗せても動きません。そして、チルドレン達は、軍人の様に、自ら志願してパイロットになったわけでもありません。チルドレン達はマルドゥック機関=ゲンドウによって、パイロットに選ばれましたが、エヴァに乗るかどうかは本人たちが決めることができます。

では、チルドレン達は、自分の意思でエヴァに乗っているかと言えば、そうとも言えません。チルドレン達をエヴァに掻き立てているのは、本当の「自分の意志」とは言い切れないためです。

シンジは「父に認められたい」。レイは「自分の存在を消したくない」、アスカは「自分を見て欲しい」という、他者によって作られた理由でエヴァに乗っています。どれも、承認欲求によるものであり、理由は他者にあり、自分の意思によって、選ばれたものとは言えません。この願望は一時的に満たされたとしても、いずれ裏切られます。碇ゲンドウはシンジを時々で褒めることはあっても、褒められ続けるためには、シンジはゲンドウにとっての「いい子」で居続けなければなりません。

レイも誰かとの繋がりを守るためには、誰かとの繋がりを断ち切らなければならないことにいずれ気づきます。アスカも他人は常にアスカを見て、アスカのために生きていないことに気づくでしょう。

しかし、このような承認欲求の末に起こる絶望は、子供が大人になるためには、必要な過程です。チルドレン達は傷つきながらも、物語の終盤では、それぞれが、「自分の意志」を見つけます。最後には、葛藤の末にシンジが見つけた「自分の意志」によって、世界の運命が決定されることになります。

ヤマアラシのジレンマ

第3使徒サキエルとの戦闘後、シンジは、普通の中学生と同じように、第3新東京市立第壱中学校に通学しています。

他者とのつながりを回避し続けるシンジは、学校でも人と交わらず、一人で過ごしていました。しかし、クラスメイトの強引な接触により、シンジは、人と関わろうとする勇気を得ます。

ある日、シンジはクラスメイトのトウジに呼び出され、殴られました。先の使徒との戦闘で妹が怪我をしたという理由でした。シンジは殴り返すこともなく、トウジの目を見ることもなく、「乗りたくて乗っているわけじゃない」とつぶやきます。そのシンジの態度に、苛立ったトウジは、再度、シンジを殴りました。

その直後に起きた使徒戦において、シンジは命令違反を犯してしまい、シンジはエヴァのパイロットから除名されてしまいます。実際には、命令違反したことよりも、シンジの主体性のなさをミサトが危険視し、除名しました。

シンジはネルフを離れるための列車に乗ろうとしますが、その駅で、トウジとケンスケがシンジを待っていました。そして、シンジを殴ったことを謝罪し、自分を殴ってくれと頼み込みます。

シンジは戸惑いますが、トウジの頼みに応え、シンジはトウジを殴り、別れを告げます。そして、別れ際、抑えていた感情をトウジにぶつけます。トウジに向かって、「殴られなきゃならないのは僕だ!僕は卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫で…」と叫びます。

シンジは、劣等感から他者と関わることを回避していましたが、クラスメイトの強引な接触によって、ここで初めて、自分の劣等感を受け入れることが出来ます。

そして、自分が優れた人間でないにもかかわらず、見送りに来てくれたクラスメイトや、励まし続けてくれたミサトがいるこの街に残ろうと決意します。

迎えに来たミサトの車のカーステからは、奥井雅美の「Face」が流れており、その歌詞は、「いつでも他者から愛されたい。本当の自分は弱いから、仮面で本当の自分を隠してしまう。」という意味のものでした。※実際の歌詞は、載せれないので。

ネルフ本部で、シンジは、いつも笑顔を見せないゲンドウがレイと楽しそうに話しているのを目撃し、レイに興味を持ち始めます。

そして、レイもまた、シンジに興味を持ち始めます。

この時点では、レイはシンジを「ゲンドウの息子」程度にしか思っていませんが、ある事件をきっかけに、ゲンドウよりも、シンジに惹かれていくようになるのです。

第5使徒「ラミエル」戦で、ラミエルの攻撃によって、綾波レイを乗せた零号機は融解してしまいます。シンジは、融解して自動射出できないエントリープラグを強制的に引き抜き、綾波レイを救出します。その際、シンジは、ゲンドウと同じように、高温のハッチを自らの手でこじ開けています。レイは、そのシンジの行動にゲンドウを重ねます。

そして、綾波レイに向かって、「自分には他に何もない」「さよなら」なんて悲しいこというなよ!と泣きながら言います。他者から心配されたことがないレイは、泣いているシンジに戸惑います。

なぜ泣いているのかと問い、こんな時、どんな表情すればよいのかと問います。シンジは、笑えばいいよと答え、二人は笑い合います。

これ以降、綾波レイのシンジの呼び方が「あなた」から「碇くん」に変わります。そして、これまで経験したことのない、様々な感情の表現や言葉をシンジから与えてもらうことになります。

例えば、レイの部屋へ来たシンジが、部屋が散らかっているのに気づき、片付けたことがありました。それを見たレイは、顔を赤らめ、「ありがとう」と言います。とっさに口から出た自分の言葉にレイは当惑します。


レイ:ありがとう…感謝の言葉、初めての言葉。

レイ:あの人にも言った事なかったのに…(ゲンドウの眼鏡を見る)


ゲンドウと違い、レイを道具として見ず、一人の人間として見てくれるシンジに、レイは惹かれていきます。

この時点で、米国を除くすべての理事国がエヴァ6号機の予算を承認。米国の承認も時間の問題という情報がゲンドウに伝わります。

同じ頃、硬化ベークライトで固められた「アダムの胎児」が、加持リョウジにより、ゲンドウの元へ運ばれています。護衛には、太平洋艦隊「オーバーザレインボー」と弐号機が護衛についていましたが、使徒に襲撃を受けます。(表向きには、弐号機の運搬がオーバーザレインボーの目的)

使徒は、アダムの胎児を奪還するために現れたのです。

キール議長は、この使徒の襲撃がシナリオから離れたものだと言っています。ゼーレは「アダムの胎児」が運ばれていたことを知りません。アダムの胎児の輸送をゲンドウが独断かつ秘密裏に行ったため、本来のシナリオから変わってしまったのです。

シンジの心境にも大きな変化が表れます。

第10使徒「サハクィエル」戦で、シンジ、アスカ、レイは協力して、使徒をせん滅しました。しかし、ゲンドウはシンジだけを褒めます。


「話は聞いた。よくやったな、シンジ。」

シンジ:さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする。

シンジ:それに、分かったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、EVAに乗ってるのかもしれないって。

アスカ:あんた、そんな事で乗ってるの?

シンジ:…

アスカ:ほんとにバカね。


前述したように、シンジは自分が父親から愛されることを無意識化で求めていましたが、自分では、その感情を意識していませんでした。しかし、今回、ゲンドウに褒められたことで、その気持ちに気づきます。

父親に褒められたことで、シンジは自信を持ちます。そして、シンジはゲンドウに褒められるためにエヴァに乗るようになります。例えば、以前はハーモニクステストの結果に興味を示さなかったシンジですが、テスト結果を気にするようになり、良い結果を期待するようになります。しかし、これは自分が良い結果を出したいのではなく、ゲンドウに褒めてもらいたいから、良い結果を求めているのです。そのため、このシンジの行動は、自分の価値をゲンドウの評価に依存してしまっており、自信過剰になる傾向を持ちます。

一方で、期待を求めて行った行動に対して、ゲンドウから十分に褒めてもらえないと、苛立ったり、ゲンドウに対して怒りを持つようになります。例えば、親の言う通りに勉強を頑張り、偏差値の高い大学を卒業したのにもかかわらず、親が約束してくれたはずの幸せを実感できないとき、子供は親に怒りを持ちます。恋愛や友達と遊ぶことを我慢し、親の言う通りに勉強だけをしてきた姉の自分よりも、親の言うことを聞かずに遊び惚け、大学に行かずに結婚してしまった妹の方が、幸せそうに思えたとき、そして、妹の赤ん坊を抱きながら、「あなたはいつ結婚するの?」と親が聞いてきたとき、姉はひどく傷つき、親に怒りを持つでしょう。しかし、親に褒められたいという感情は、親への怒りでは消えることはなく、この姉の行動を決定づけます。褒められたいという気持ちと、親への怒りを同時に持ち続けるのです。

そして、姉の関心は、親に愛されるための結婚に向けられ、親に褒められるための男性を探します。こうして、不幸は姉の結婚相手やその子供にも連鎖していきます。

アドラーは賞罰教育を否定しています。「叱って育てる教育」だけでなく、「褒めて育てる教育」も否定しているのです。褒められて行動する子供は、褒められないと行動しなくなり、自主的に行動できなくなると指摘しています。

シンジの様に親からの承認を過剰に求める子供にとっては、褒められることは、麻薬の様に中毒性の高いことであり、自主性を奪ってしまうのです。

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9 Thoughts to “【エヴァ】なぜ人類補完計画は破綻したのか?徹底考察”

  1. John Smith

    異議申し立てしたら動画戻るんじゃないですか?偽名義での攻撃なのでは

    1. unknown

      返信遅くなり、ごめんなさい。その可能性もありますね。
      次はしっかり武装して、消されたときは異議申し立てしたいと思いますw

  2. John Smith

    異議申し立てしたら動画戻ったりしないのですか?私はこの動画がとても好きでした。今削除されているのはとても残念です

  3. 日向

    以前、作成された動画を拝聴しとてもわかりやすかったので
    もう一度見たいなと思ったのですがYouTubeから削除されてしまったようです。
    もう一度youtubeにあげることが難しければ、ニコニコ動画に上げ直して頂いて
    リンクを修正して頂けないでしょうか?

    お忙しいところ、お手数おかけしますが素晴らしい動画だったので
    再び見れる事を楽しみにしています。

    1. unknown

      返信、遅くなりすみません。
      新しいエヴァ動画を作り直そうと思います。すこし時間がかかると思いますが、よろしければ、そちらを見てもらえると嬉しいです。

      1. mado

        新しいエヴァの動画、待ってます

        1. unknown

          ありがとうございます!

  4. aki

    サラさんは精神分析学を深く理解されているように、この考察を見ると思えますが、その道の勉強はやはり大学などでなさっているのでしょうか?それたまある程度は、独学でも行える範囲なのでしょうか?

    1. unknown

      私の大学での専攻は、経営管理でした。心理学は趣味で図書館の本を借りて勉強しています。
      私の知識は、ぜんぜん深くないですよ。心理学を勉強されている方が私の動画を見たら、ツッコミどころ満載と思いますw